夢砕かれた僕のバレンタインデー

割れたバレンタインチョコ



友人「もうすぐバレンタインデーだね」

僕 「あ?」


あーあれね……約50年ぶりにシーズン本塁打記録を塗り替えたウラディミール・バレンティンのことね。特に前田健太から打ったホームランはすごかったよね~。

え、違うの?



ぼくのバレンタインデーの1日



3連休も終わり、次の祝日までは1か月も先。

そんなただの月半ばに、“バレンタインデー”は存在している。祝祭日でもないのにカレンダーに書き入れるのはやめてほしい……。

喜んでいるのは「リア充」と「商売人」だけだろうに。




「さてとっ……あれ?」

おかしい。僕の下駄箱の中には、確実に何かがある。そして指先に伝う違和感と今日という日が重なった時、僕の心臓は高く跳ね上がった。

まさか、ぼくに限ってそんなことはない……。

昇降口で飛び交う会話は、頭に入ることなく耳を素通りしていく。




おそるおそる、指先でつまんだ何かを出してみると、そこには1枚の手紙が入っていた。普段なら捨てられているだろう紙切れも、“バレンタインデー”のひと言に支配されたこの日だと、途端に夢が詰まった宝物に変貌した。




<放課後に屋上で待ってます。ヨシミ>



うそだろう?

ぼくの下駄箱から出てきた1枚の手紙は、学校のアイドル、ヨシミからの直筆のラブレターだった。


友達のいないぼくは、ひとりで喜びを噛み締めた。まさか……こんなイケてない僕でもこんなことがあるなんて。




昼休みも終わり、刻一刻と迫る放課後に胸がざわつく。もはや先生の言葉なんて頭に入ってきやしない。

ヨシミにチョコがもらえる

ヨシミとおしゃべりができる

ヨシミと……付き合えるかもしれない



そして、そんなぼくの気持ちを知らずに、手紙を出したヨシミはいつもの様に男子に囲まれて癖のない笑顔を振りまいている。

フフッ……もうすぐでヨシミは僕のもんだ。せいぜい今のうちに関わっておくがよい。





学校のイラスト


にやけた男のイラスト


ヨシミに会える、ヨシミに会えるんだ……

こんな僕がヨシミと2人きりで会えるんだ。



屋上までの階段は残すところあと8段……あと8段先にある扉を開けば、つまらない学校生活におさらばだ。

1歩踏み込むたびに襲う嵐のような胸の高鳴りは、ぐいぐいとぼくを屋上に引っ張っていった。

そして扉を開ける……。





「お……おくれてごめんね。待った?」

陽の光がいっぱいに広がる。

ヨシミにヨシミの友達、2人がぼくに視線を向ける。陽の光のせいでヨシミの顔はぼんやりと見える。

「……」

「……」

2人はぼくから視線を外して、お互いの顔を見た。

「え?ねぇヨシミ、ヨシミが好きなのってまさか……」

「まさか」

ヨシミは怪訝そうな顔をした。なにかがおかしい……ぼくの高鳴った胸は、違う方向に騒ぎはじめる。




「なんであんたがここにいんの?意味わかんないんだけど」

女性の怒った顔のイラスト


「え……?ヨシミちゃんが来てって言ったんじゃ」

「は?なに人の手紙見てんだよサイテーなんだけど!しかも気安く名前呼んでんじゃねーよキモい!」

「え?ヨシミさぁ本当にシゲルくんのところに入れたの?だってこいつが手紙持ってるのっておかしくない?」

「ちゃんと確認したつもりだけど……はぁ。ありえないわ」

困った顔をしている男性のイラスト


「返して」

「え?」

「てがみ!いつまでも触ってんじゃねーよ!」

右手に持った1枚の紙切れは、ぼくの夢とともにこの身から引き剥がされた。




昇降口へ着いたころ、つい2~3分前まで上ずっていた心臓は嘘のように体の中心に戻っていた。

「そんなワケないよね……」

大丈夫大丈夫……最初からこんなことあり得なかったんだ。むしろ性格が悪い奴だって知れただけ幸せだ。

呪文のように定型文を呟きながら下駄箱へ手を伸ばすと、ぼくはあることに気が付いた。

下駄箱のイラスト


なるほどね。



――とりあえずマヨネーズでも入れとくか。



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